ピンチはチャンスだ!卒業式
2月に世界的に流行した新型コロナウイルスの影響で、3月2日(月)の午後から小学校が休校になってしまいました。2日から卒業式の練習を始めようとしていたので、「卒業式の練習をしないままに本番を迎えるのではないか」「そもそも卒業式をできるのだろうか」と校内でも不安の声が広がりました。もちろん、学年団も大パニックです。考えても仕方ないことを考えるのはやめにして、「するとしたらどんな卒業式が可能か」という話し合いを校内で何度も行ったので、忘れないように記録しておこうと思います。
卒業式に向けた準備
学年団の雰囲気がとっても良くて、家にいる子どもたちに向けて何かできないかという話から、「HPに毎日、卒業式までのカウントダウンをしよう。担任からのメッセージを黒板に書いていこう」という話になりました。4人の担任+音楽と理科専科の先生にも協力してもらい、子どもたちが卒業式を楽しみにしてくれるよう、学校は卒業式をしたいと思っているよ、早くみんなと会いたいよというメッセージを送り続けました。僕が担当した日の黒板はこんな感じです。
謎解きの要素も入れようということで、毎日一文字ずつ字を大きくしたり目立たせたりした工夫も取り入れました。絵を描くことに興味はあるけどうまくないので、この絵はプロジェクターで黒板に映してなぞりました。スマホとプロジェクターを直接DCMIケーブルでつなぐと手軽にできるからおススメです。なぞるだけなので10分くらいで書きました。
ある日、情報委員の子とその保護者が学校に来ました。保護者から「先生たちが書いているHPを見ました。学校はお休みだけど、先生たちが子どもたちのためにメッセージをのこしているのとてもステキだと思いました。」と話をされました。子どもからも「私にもできることはないかと思って、HPの記事を書いてきました。」と手紙を渡されました。クラスは違ったけど、僕が情報委員会の担当だったので、「ありがとうございます。ぜひとも載せさせてもらいます。まだまだ心配はつきませんが、できる限りのことをしていきたいと思います。」と伝えました。
子どもたちも不安な気持ちで毎日を過ごしているんだなと思いながら、誰にも告知してなかったけど、こうやってHPを見てくれる人たちもいるんだなって励みになりました。
肝心の卒業式はどうしようという話になり、細かい点をつめていきました。時間短縮のためにできることは減らし、でも卒業式のメインである授与にはある程度の時間をかけたいという思いで組み立てていきました。
・卒業式の開始時間を30分遅らせて練習時間を確保する
・入退場は少し早く歩く
・呼びかけはしないが、合唱は保護者の方を向いてマスクで歌う
・校歌は1番だけ
前日の準備を職員で行い、3時半からリハーサルをしました。子どもたちの動き方のイメージを持つために、リハーサル後に先生たちに協力してもらって確認をしました。今までとは違う動線のため、ぶつかるところや混雑するところがあることが判明したので、呼名のタイミングや調整にだいぶ時間がかかりました。本当はこれを前日までにしておいたらよかったねって放課後の職員室で話がでて、「確かに、卒業式の予行演習って3,4日前に毎年しているな。事前に確認するってこういうことか!!」と大いに納得しました。
当日の朝
教室は朝からとても活気にあふれていて、「久々に子どもたちの声がする~うれしいな」と思いました。何より子どもたちの表情がとても嬉しそうでした。机の上に置いてある胸花とPTAから寄贈されたお祝いを眺める子、友達と久々の再会を喜ぶ子、何だかそわそわして何度もトイレに行っている子、明日の遊ぶ約束を取り付けている子など、いつもと同じような風景がそこにはありました。「先生、今日の卒業式はどんな感じなんですか?」「今日することは何ですか?」と口々に質問に来るので、「練習の時に一括して伝えるから教室では言わないよ。」と伝えました。「ちょっとのどの調子が…」と言ってきた子もいます。すごく心配そうな顔をしていたので、「あまり大きな声は出さないようにね。歌を歌うからその時までのどを温存しておこうね」と伝えました。
8時15分には全員が集まってしまったので、はじめにあゆみ渡しをしました。本来なら一人一人コメントを伝えながら渡したかったのですが、時間がなさすぎて「1年間よく頑張りました」という一言を添えて渡しました。簡単な健康観察をした後、手の消毒をして8時半には体育館に集まりました。
体育館に集まった6年生。いよいよ卒業式の練習です。練習できる時間は1時間半。座る場所も流れも知らない、本当に初練習が本番当日だったので、『完璧を求めない』『できることを選んでする』を心がけました。
・起立の仕方(卒業証書の持ち方)
・座り方
・卒業式の流れ
・授与について
・入場
・退場
・国歌、校歌、合唱曲「次の空へ」の練習
「より少なく、しかしより良く。」学年主任の先生が、「一発勝負だから失敗してもいい。でも失敗した人を笑ってはいけない。練習不足はみんな同じだからこそ、温かい雰囲気で会を行いたい。」と言うと、子どもたちの表情がきりりと引き締まりました。保護者が体育館入り口に行列を作っている中、最後の最後まで練習をして、教室に一度帰りました。毎年、卒業式後の退場をした後すぐに校舎から子どもたちの話し声が聞こえていて、「集中していた分仕方ないのかな」と思っていたのですが、今年転勤してきた先生が、「最後の児童が教室に帰って拍手をはじめるまで、みんなが教室に座って静かに待つようにすると効果的でしたよ。4組の最後の子が拍手を始めると4組が拍手をして、それをきっかけに3組が拍手、2組、1組とつなげていくと、拍手で廊下がいっぱいになってとてもステキです。」と教えてくれたので実践してみました。
卒業式直前の教室にて
最後に退場した児童が教室の椅子に座ると拍手が始まりました。それを聞いた3組が拍手をして……という連鎖で廊下が拍手でいっぱいになり、6年生がひとつにまとまった感じがしました。久しぶりの学校に緊張した子もいるのではないかと思ったので、5分間休憩をはさんでから教室で最後の話をしました。
卒業式当日の朝。教室に来た子たちにどんなメッセージを伝えようかな。朝の会までの時間にどんな思いを持ってもらいたいかな。卒業式をどんな気持ちで過ごしてもらいたいかな。そんなことを考えて黒板に詩を書いていたので、その詩を使いました。
今年選んだ詩はこちらです。
ピンチはチャンスだ! ありがとう
清水 英雄
つらいことがおこると 感謝するんです
これでまた強くなれると ありがとう
悲しいことがおこると 感謝するんです
これで人の悲しみがよくわかると ありがとう
ピンチになると感謝するんです
これでもっと逞しくなれると ありがとう
つらいことも悲しいこともピンチものり越えて
生きることが人生だと言いきかせるのです
自分自身に
そうするとふっと楽になって楽しくなって
人生がとても光り輝いてくるんです
ピンチはチャンスだ 人生はドラマだ
人生がとてもすてきにすばらしく
よりいっそう光り輝きだすんです
ますます光り輝く人生を
ありがとう の心と共に
引用:「ありがとう」清水英雄
今年はコロナウイルスの影響で学校が休校になってしまったね。とても悲しくて残念だったと思う。先生もこの1ヶ月、みんなともっと一緒に過ごしたかった。みんなも友達との時間をもっと持ちたかったと思います。起きてしまった事実は変えられない。
だけど、考え方を変えることはできると思うよ。「ピンチはチャンスだ 人生はドラマだ」この少ない練習時間でも、自分たちが精いっぱい練習した証を保護者にみせよう!そして、この学校で学んだ6年間の思い出を胸に持って堂々と卒業式をしよう。先生はみんながよい表情で最後の瞬間を迎えることを楽しみにしています。
だいたいこんな話をしました。真剣な表情で話を聞いてくれた子が何人もいて、『去年は一昨年はネットで調べてよさそうな言葉を選んで伝えていたけれど、やっぱり目の前の子どもに一番伝えたいことを考えて、言葉を紡いでいくことが大切なんだな』と感じました。歌の練習を教室でしていると、音楽の先生が教室をのぞきにきて、とてもにっこりされていました。歌にはパワーがあります。呼びかけがなくなってしまい、マスクで歌うことにはなってしまったけど、この歌詞に子どもたちの気持ちを乗せて保護者に伝えることができそうだと、僕は感じました。
そして卒業式
保護者席も児童席も今までより感覚を話したので、体育館中央の道がとてもせまくなっていましたが、堂々とした入場で式が始まりました。途中でとても大変なハプニングが発生して校長先生があわあわしていていましたが、機転を利かせてピンチを回避していました。校長先生、さすがだなと思いました。合唱では、曲の入りがいつもと違っていたようで、冒頭の「10年後の~」が歌えませんでしたが、途中から歌い始めていてまぁまぁ自然な感じになりました。その時もひやひやしました。保護者席に目をやると、クラスの保護者が涙ぐんでいて、僕ももらい泣きしそうになりました。歌を歌いながら声が震えていたので、心の中では泣いていたのかもしれません。
「卒業生退場」の声とともに、教職員が全員立ち上がりました。校長先生発案で、教職員が退場曲を生演奏することになったからです。これまでは在校生である5年生が合奏していたのですが、今年度は在校生の参加ができないということで、「先生たちから児童へのサプライズプレゼントとして合奏してほしい」という思いがあったそうです。担任だけが机に残っているのも変なので、担任は児童の前に立って退場を見送る係ということにしました。キーボードのコードが抜けていてメロディパートが少ないというハプニングもありました。やっぱり、本番っていろいろなことがありますね。
退場そして旅立ちの時
退場した後、教室中、いや校舎中が拍手でいっぱいになり、「終わった感」がすごくありました。席についている子たちに最後の学級通信を渡し、エールを送りました。まだまだ話したいことはたくさんあったけど、意外とすぐに「教室を出てください~」という連絡が入り、しんみりする時間もなくそそくさと最後のあいさつの時間になりました。
「姿勢。これで小学校での学習を終わります。礼。」と僕が言うと、教室中に、「ありがとうございましたー!」という声があふれかえりました。その時に一番自分の胸の中がいっぱいになりました。出会ってくれてありがとう。自分を大きく成長させてくれたこの一年間に僕自身もありがとうございましたと心の中でつぶやきました。
おわりに
この1か月間、本当に先の見えない不安でいっぱいでした。でも、こうやって一つの形として卒業式が無事に執り行われたことはよかったです。満足です。4月からどうなっていくかはわかりませんが、ひとまず今日をしっかりとかみしめようと思いました。
卒業式、1時間半の練習時間しかなかったけど、素敵な式だった!!忙しかったけど。
— よっしー@Y.TAKEDA (@takeda109) 2020年3月19日
写真は昨日自分で作った胸花🌸🌸 pic.twitter.com/kiLBvUfLhv